フォルダー「D-2 ビート音階」 a 純正律とのビート音階  まず説明用の図で純正律による音階と12平均律による音階の周波数の違いによる「うなり」を説明します. 図「純正律と12平均律の差をビートで見る.JPG」は,上から順に 「D-1 各種音階」の scale5_H1_Just.wav(「ド」を264Hzとした正弦波1本による純正律長音階) scale5-H1_E12.wav(「ド」を264Hzとした正弦波1本による12平均律長音階) および, 「D-2 ビート音階」の「a-1 純正律とのビート音階」の「基本波のみ・5秒/音」の中の beat5_H1_E12.wav(上記2波形の加算による音階:最大振幅は2倍になりますが描画のために圧縮) の時間波形をプロットしたものです.  横軸は時間で目盛りの単位は秒です.各図は左から順に「5秒/音」の「ドレミファソラシド」の 8音が並んでいます.音の切り替わり時点でクリック音が発生するのを避けるために,各音は前後に 対数テーパーを付けてありますが,上の2つは定常部分では一定振幅の正弦波なので, どの音も振幅が一定です.  最下段の図では振幅が時間的に変動していますが,これが「うなり」です. 両端の「ド」では上の2つの波形がいずれも同一振幅・同一周波数の正弦波で初期位相を一致させて ありますので,加算波形は元の波形の波高値を5秒の全時間区間で2倍にした安定な正弦波になります. 「ド」以外の音では上の2つの波形が同一振幅で,周波数がわずかに異なる正弦波なので, 周波数がそれらの平均値で振幅が周波数差の頻度で振幅が増減する「うなり」になります. 加え合わせた正弦波の振幅が同一なので,うなりの最大振幅は元の波形の2倍,最少振幅は0になります. 5秒の立上りと立下り部分では振幅が中途半端になっていますが,これは,各音の前後が対数的に 絞られているためです.  各階名音の周波数は音律によって純正律からのズレ幅が異なります.それらのビートの包絡図をまとめて, 図「純正律と各音律とのビート音階.JPG」に示します. 波形包絡を見ると幾何学模様のようになっていますが,これはコンピュータで発生させた正確な正弦波を 足し合わせたので,振幅の包絡線が規則的になったからです. 通常の楽器では各音が時間的に揺らぐことが多いので,もっと不規則的になります.  これらは,上記の最下段で,12平均律による音階を他の音律による音階に入れ替えたものです. 図が小さいので分かり難いですが,以下のことが見て取れます.(D-2 の5秒音で確かめてください.) 1.ピタゴラス音律,ミーントーン音律では上の「ド」でうなりが生じる. 2.53平均律は純正律からのズレが他の音律よりも平均的に小さい. 3.ピタゴラス音律は「ソ」と「レ」でうなりがないが,「ミ」,「ファ」,「ラ」,「シ」で大きい. 4.ミーントーン音律では「ミ」でうなりがないが,「ファ」で大きい.オクターヴのズレが大きい.. 5.キルンベルガー音律では「ミ」と「シ」でうなりがない.「ファ」,「ソ」,「ラ」のズレも抑えられている. 6.ヴェルクマイスター音律では「レ」と「ソ」でうなりがないが,「ミ」,「ラ」,「シ」で大きい. 7.ヤング音律では,純正律と一致する音が「ド」以外にない.「ラ」以外のズレは小さい. 「純正律とのビート音階」では純正律を基準にしたので,純正律との差を聞くことになります. 高さの差が大きければ速い時間変動として聞こえますが,定常音ではどちらが高いのかは分かりません. (調弦の場合は一方の高さを変えるのでうなりが速くなるか遅くなるかでどちらが高いのかが分かります.) フォルダー「純正律とのビート音階」は「ドを基準とした純正律音階と当該音階とのビート音階」のつもりです. (フル記述の長さを抑えるために省略形にしました.) 音の境界で一旦音を絞ってあります. 各音が正弦波1本だけのものと,高域減衰型の8成分調波合成音のものを用意しました. それぞれ,音の長さが0.5秒のものと,1秒当たりのうなり回数をカウントできるように持続時間を5秒に したものを入れておきました.  コンピュータによる波形合成の場合,波形包絡の形は,足し合わせる2つの波の最初の位相が 大きく関係します.特に全く同じ周波数(このシミュレーションでは「ド」)の場合, 同位相で足し合わせると波高値は2倍になりますが,位相を180度すらせると,足し合わせた波高値は 常に0になります. 各音を基本波だけで作る場合,「ド」の始点を半周期ずらせると,「ド」で半周期ズレた同一振幅の 2つの波を加えると波高値は常に0になりますが,同じ時間長のズレでも「レ」,「ミ」,「ファ」・・・ でのズレ量は半周期よりも少しずつ多くなり,オクターヴ上の「ド」ではちょうど1周期ズレることになって, 最大振幅は2倍になります.  このように,うなりの波形は初期位相の差によって変わります(D-4 を見てください)が, 単位時間あたりのうなりの頻度は初期位相によって変わることはありません. a-2 12平均律とのビート音階  フォルダー「D-1 各種音律」に入っている同じ時間長の音列を2つずつ加えて, その2つの音階の各音に高さの差があれば,それが「うなり」(音量の時間変動) として聞こえるようにしたものです. 「12平均律を基準にした音階での比較」では音の境界で,音が突然切り替わります. 各音の長さは約2.5秒ずつになっています. 「b.12平均律で純正律からの差が大きい音」  12平均律で作った音階と純正律で作った音階を加えた図から分かるように,あるいは, 12平均律で作った音階と純正律で作った音階を加えた音のうなりから分かるように, 「ド」を基準にした音階では,12平均律の「ミ」,「ラ」,「シ」は純正律からの差が 他の音よりも大きい. このうち,「ミ」と「ラ」について,純正律からの差を,12平均律と53平均律で 比較するためのもので,うなりの違いを図によって比較したものである. 12平均律の「ミ」と「ラ」は純正律とのうなりが速いが, 53平均律ではゆっくりしたうなりになっているので,純正律との差が小さいことが分る. うなりを音にして聞きたい場合は, フォルダー「基本波のみ・5秒/音」の中のwavファイルを聞いてみてください. 12平均律と純正律との差は,beat5_H1_E12.wav 53平均律と純正律との差は,beat5_H1_E53.wav に入っています. ドレミ・・・の各音はテーパー込みで5秒ずつ入っています. 12平均律は純正律から5秒の間に, 「ミ」で13~14回,「ラ」で19~20回,「シ」で17~18回 のうなりが聞こえます. 53平均律の場合は5秒の間のうなりが最大で3回以下に抑えられています,